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困っていること

近所に認知症(旧称:痴呆症)気味のお婆ちゃんがいる。細い道路に面したアパートの1階に住んでおり、お昼前から夕方ぐらいまで窓を開け放って手すりに体をあずけてブツブツと独りごちている。

はじめ何度か耳にしたときは、誰かと話しているのか単に独り言が大きいだけかと思ったが、「美智子様は昔、正田醤油の...」と言っているのを前を通りしな聞いたとき、「ああ、やはり」と自信から確信に変わった。

出掛けるときはほぼ100%そのアパートの前を通るので、そのお婆ちゃんに面が割れてしまっているようだ。冬場はさすがに寒いのか窓を開け放していないので、接近遭遇する機会はほぼなく、翌春になるまでに私を忘れてしまう。でも、今年は違った。私を覚えていたのだ。

そう感じたので、たまに目が合ったときは軽く微笑んだり、「こんにちは」と微かな声で挨拶をするが、そういうときに限ってすでに目を逸らしていたり聞いていなかったりする。完全に一人相撲だ。まあそれはよい。

一昨日の午前中、寝癖がひどく鉄腕アトムみたいに極めて不自然な髪型だったので、暖かな陽気だったがニット帽をかぶって外に出た。前方にはいつものスタイルで窓越しに半身を出しているお婆ちゃんの姿。

私は「今日は暖かいですね」という含みを込めた微笑を3メートルぐらい前から必死に作って、でも視線をジャストフォーカスしないぐらいに曖昧に宙に浮かせて通り過ぎようとすると、明らかに私に向かってお婆ちゃんから声が掛かった。

「その帽子似合うね」

私は振り向こうかと思ったが、心を鬼にして前に突き進んだ。銀行が混雑する前にさっさと用事を済ませたかったし、そもそも振り向いてどう言えばよいかわからなかったからだ。さらに歩を進めると、お婆ちゃんから耳を疑うような言葉が。

「あんたオカマでしょ」

は? 堪忍袋10GBの私も、ちょっと固まった。心の奥底から熱いマグマが沸々と湧き出して頭の頂点を突き破り、パンドラの箱から出てきた魑魅魍魎たちが「わっしょい、わっしょい」と私を胴上げする。

悪魔モードの自分が「あんた何を言ってるんだこのヤロー」と振り向きざまに叫びそうになったが、天使モードの自分が「怒っちゃダメ。そのまま銀行へゴーよ」と耳元で囁いてウィンクしてくれたので、グッと堪えて歩を進め、角を曲がった。

銀行に辿り着くまでの数分間、やり場のない憤りが私を毒した。「俺のどこを見てそう言ってるんだい? そんなわけないだろう? でも、万一そうならどうだってんだい? 愛にはいろんなかたちがある、俺はそれを頭から否定するつもりはないんだ。なあ、お婆ちゃん。俺たち世代が違うから、いろんな面で見方も考え方も違う。でもね、俺はいたく傷ついたよ。だからもう、そんなふざけたことを言わないでね」と、心のなかのお婆ちゃんと勝手に話して、勝手に和解した。

そして、そのアパートの前を通るのがほとほと嫌になった。

Posted on 2005-03-19T01:58+09:00 | Category: 身辺雑記

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