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書評『日本語は生き残れるか』

[日本語は生き残れるのか]『日本語は生き残れるか ─ 経済言語学の視点から』
井上 史雄 著(PHP新書、2001年8月、693円)

IRI(国際化リソース識別子)がIETFからRFC 3987として公開された最中、たまたまこの本を読んだ。

国際化、グローバル化、西欧化、欧米化などいろいろな言い方があるが、ひとまず言語コミュニケーションの世界に限定しても、日本だけでなく各国が長らく英語化(米語化)に向かっていると言ってよい(余談だが、フランスの自国語純化政策はその流れへの対抗策。前世紀まで外交語のスタンダードだったフランス語の地位保全のため)。

私たちWebの世界にいる人間は特にそうだ。各種仕様書を原文で読んだり、アメリカのサイトから最新情報を収集したりと、英語に頼らざるをえない状況に数多く直面する。

本書は経済言語学、つまり「言語を市場価値で捉える」という新しいアイデアのもとで書かれた本である。「なぜ英語は市場価値が高いのか」という問題意識に導かれたと言ってよい。この疑問は裏を返せば、「なぜ日本語は市場価値があまり高くないのか」ということになる。

個人的なエピソードをひとつ。学生時代、中国人の留学生から「日本語はとても難しい」と言われた。「なぜ?」と聞くと、「海を表すにも、砂浜、浜辺からはじまって、浅瀬、沖、遠洋、遠浅などいろんな言葉がある」と答えた。「僕たちから見たら同じ物事でも、日本語には異なる言葉が何種類もある」。

言語の難易度を計る尺度には「音韻」「文法」「語彙」の3つがある。著者の見解では、日本語の難しさは「文法」にあるのではなく「語彙」にあるとされる。確かに日本語の文法は助詞・助動詞などの面でやや複雑とはいえ、本質的には上記のような語彙の多様性が習得の難しさに直結しているようである。

では「音韻」はどうか。これも多言語に比べて格別難しいとはいえない。日本語の母音・子音の種類は少なく、「r」(アール)と「l」(エル)の区別もなければ、「s」(エス)と「th」(ティーエイチ)の区別もない。

文章を構成する文字の豊富さも日本語が難しいと言われる所以(ゆえん)である。漢字は5万字ほどあり、加えて平仮名、片仮名、算用数字、各種記号がある。しかも、これらの適切な使い分けが求められる。対する英語は、26文字のアルファベットと数種の記号を覚えればすむ。著者の言葉を借りれば、日本語は文字の点では世界一難しく、初期投資が大きく、経済的とはいえない文字(p.176)である。

そのような日本語の市場価値は果たしてどの程度なのか。今後、日本語の市場価値はどのように変動していくのか。本書を読んで考えてみてほしい。

* * *

IRIでは利用可能な文字がASCIIの一部からUnicode(ISO 10646)に拡張されることで、リソースの識別子に日本語を含めることができるので、将来的にはXHTMLRDFでも日本語で識別子が指定できるようになったり、フォルダ名やファイル名にも日本語が使えるようになるようだ。

IRIの概要ついては、W3C「IETFによるURI標準及びIRI標準化提案への支持を表明」でわかりやすく説明されている。

Posted on 2005-02-03T16:19+09:00 | Category: 書評

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