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Googleの挑戦状

[スクリーンショット: SEC, Form S-1 Google Inc.]GoogleのIPO(新規株式公開)が方々で話題になっている。

Web記事を見ていると、IPOでマーケットからどのぐらい資金調達できるか[1]、これまでのGoogleの企業理念・企業文化が崩壊してしまうのではないか[2]の2点に集約されるようだ。

後者について特に注目を集めているのが、GoogleがIPOのために4月29日にSEC(米国証券取引委員会)に提出した書類(Form S-1)の中の「"An Owner's Manual" for Google's Shareholders」(Googleの株主のためのオーナーズマニュアル)という書簡だ。

この書簡はGoogleの創業者Larry PageとSergey Brinが株式公開後もいかにGoogleのポリシーを堅持するかを書いた「宣誓文」だ(執筆はPageが担当)。

「短期利益偏重」「過剰な株主重視」という、ある意味で当然とされてきた経営スタイルを全否定しているのが面白い。単に宣誓文というだけでなく、Googleがビジネス界に叩きつけた「挑戦状」ともいえる。

「オーナーズマニュアル」うちいくつかの宣言が他所で抜粋的に紹介されているが[3]、以下、実際にForm S-1[4]で示されている10の宣言すべてを要約・翻訳しよう。

1. エンドユーザーの確保(Saving End Users)

われわれはあらゆる話題(topics)について目的に合致した情報を即座に表示するという、非常に重要なサービスを提供してきた。

エンドユーザーの確保は、No.1としての優位性(number one priority)を獲得し、維持するための最重要事項(heart)である。われわれの目標は、できるだけ多くの人の生活を向上させるサービスを開発することだ。

われわれは97以上の言語をサポートし、ほとんどのサービスを無料で提供してきた。主な収入源は広告だが、押しつけがましい迷惑な広告でなく、目的に合致した有用な広告を提供している。

2. 長期的経営への集中(Long Term Focus)

われわれはこれまで非公開会社(private company)として長期的経営に集中してきたし、それこそがGoogleが今の地位にある理由だ。公開会社(public company)になってもそれは同じである。

短期業績を犠牲にしても長期的に株主の利益になれば、そのような機会を実行に移す。われわれは不屈の精神でそれを貫くので、株主にも長期的視点に立ってもらいたい。

われわれは常に会社と株主の長期的な繁栄を考えて、経営上の基本原則(business fundamentals)に沿って意思決定する。四半期ごとの短期間で事業の行く末を予測することはできないし、人為的に仕立てた短期目標数値が株主のためになるとは思わない。

3. 長期的なリスクとリターン(Risk vs Reward in the Long Run)

われわれは短期利益のためにハイリスク・ハイリターンなプロジェクトに尻込みしたことはない。プロジェクトのいくつかは大きな利益を生み出し、ほかは失敗に終わったが、長期的な成功にとって重要なのは常にそのようなプロジェクトに取り組みつづけることだと考えている。

たとえば成功率は10%だが、長期的には10億ドルの利益を生み出すと予想されるプロジェクトなどだ。特に初期投資が少額ならば、積極的に他分野のプロジェクトにも取り組む。

われわれは従業員に、日常業務だけでなくGoogleの利益を最大化するプロジェクトを考えるのに、労働時間のうち20%を割くよう働きかけている。

これこそが創造性や革新性の原動力であり、「アドセンス」(AdSense)や「Google ニュース」(Google News)はこの「20%の時間」で生まれた代表例だ。

4. 経営陣の役割(Executive Roles)

われわれは今後も 3人体制(triumvirate)でGoogleを経営していく。私(Page、以下同じ─引用者注)とSergeyは過去8年間、Googleでは5 年間、一緒に働いてきたし、CEOのEricは3年前にGoogleの経営に参加した。3人体制は他にあまり例がないが、われわれはこの方法でうまく経営してきた。

われわれ3人はタイムリーな意思決定(timely decisions)のために毎日顔を合わせ、経営について最新情報を交換し、最も重要かつ緊急な問題について考えを共有してきた。

われわれのうちひとりが決定し、2人に要点だけを伝えることもあるが、これは互いに多大な信頼と尊敬の念を抱いており、おおよそ考えが似通っているからである。

EricはCEOとして法的責任を負うとともに、副社長(vice presidents)と販売組織の管理を担当している。Sergeyはエンジニアリングと事業協定を、私はエンジニアリングと製品管理を担当している。

5. 企業構造(Corporate Structure)

われわれは長期的な安定性(stability)が実現できるような企業構造になるよう日々努力しており、Googleが重要かつ意義のある企業になることを望んでいる。そのことで企業に時間、安定性、独立性がもたらされるからだ。

公開会社への移行にともない、買収や外部からの影響に耐え、われわれ経営陣が長期的で革新的なアプローチにもとづいて意思決定しやすい企業構造にしている。「2種類の株式による所有構造」(dual class voting structure)と呼ばれるものである。

新たな投資家はGoogleの長期的な成長により十分な成果を得ると思うが、他の多くの公開会社とは異なり、企業の戦略的意思決定に対して大きな影響力は行使できないと考えてもらいたい。

これはIT企業としては異例であるが、メディア企業では一般的であり、非常に重要である。New York Times、Washington Post、「The Wall Street Journal」の発行元であるダウジョーンズ(Dow Jones)などは、2種類の株式による所有構造を採用している。

これらのメディア企業はこの構造のおかげで、四半期の業績に変動があっても中核的で長期的な業務である真摯なニュース報道(serious news coverage)に集中できていることは、メディア評論家がよく指摘するところだ。

われわれは最近、取締役会(board of directors)に3人のメンバーを加えた。スタンフォード大学学長のJohn Hennessy、Genentech社CEOのArt Levinson、Intel社社長兼COOのPaul Otelliniだ。彼ら以上の力量と経験を備え、われわれを奮起させてくれる人間はいない。

私とSergeyがGoogleを設立したとき、現在のような規模と影響力を得ることを願ったが、予期できたわけではなかった。われわれの熱烈かつ不朽の興味は、人々が情報を効率的に収集するのに役立つことである。

活発な社会というものは、質の高い情報に対して十分かつ無料で偏向のないアクセス(abundant, free and unbiased access)を備えていなければならない。2種類の株式による所有構造はこのようなGoogleの社会的責務に合致している。ひいてはこれが、株主価値を増大すると確信している。

6. 公開会社になること(Becoming a Public Company)

われわれは成長しすぎたことで、非公開会社としての優位性の一部が損なわれてしまった。法律で一定規模以上の非公開企業には公開会社と同等の報告書の提出が義務づけられているが、われわれは提出期限に間に合わせるために、意思決定を急がなければならないことがあった。

Googleが他の非公開会社と同じように企業情報を公開しないですむならば、そのほうが競合他社(competitors)に対抗するのに役立つはずである。だが、われわれは大きくなりすぎてしまったので、企業情報は広く知られることとなってしまった。

もちろん、われわれは今後公開会社として、法律で定められた情報をすべて公開し、経営行動についても十分説明していくつもりだが、競争力や戦略、将来的な方向性について、法律で求められていない情報まで積極的に公開するつもりはない。

7. IPO価格と配分(IPO Pricing and Allocation)

われわれはオークション式IPO(auction-based IPO)で株式を公開する。多くの企業が不当な投機などで痛手を負っているが、オークション式IPOがこのような問題を最小限に食い止めることができると考えるからだ。

われわれの目標はIPO時もそれ以後も効率的な市場価格を取りつけることであり、またIPOから数日間も安定的な価格で推移し、IPO時の公正価格で売買してもらうことである。

われわれは投資家に長期的な視点で出資してもらいたいと思う。長期にわたって株価は安定しないと考える投機的な投資家には株式を購入して欲しくない。

8. グーグラー(Googlers)

われわれの従業員は自分たちのことを「グーグラー」(googlers)と呼ぶが、彼らこそがすべてだ。われわれは創造的で道徳的でよく働く従業員をもって幸せである。今後もそのような従業員を増やしていきたいと思っているし、十分な報酬と待遇を与えるつもりだ。

われわれは従業員に無料の食事、医師の利用、洗濯機など異例の手当を与えている。われわれはこのような手当が企業の長期的な優位性を維持するのに重要だと考えており、今後手当を増やすことも考えている。

十分な手当によって従業員の大切な時間を保護し、彼らの健康と生産性を向上させられることを考えれば、安物買いの銭失い(penny wise and pound foolish)は愚かである。

9. 悪魔に身を落とすな(Don't Be Evil)

われわれは長期的に見れば、企業は短期的な利益を無視してさえも、世界に役立つことを実行すべきだと考える。これはわれわれの企業文化の重要な点であり、社内で広く共有されている考え方である。

Googleの利用者は医療や財務など重要な意思決定のために、われわれのシステムを信頼して利用している。Googleの検索結果は偏向がなく客観的であり、検索結果の保証、インデックスへの追加や更新のために金銭を受け取るようなことはしない。

新聞と同じように記事と広告は明確に区別されており、広告主が記事に対して影響力を行使する余地はないのである。

10. 世界をよりよくする(Making the World a Better Place)

われわれはGoogleが世界をよりよくするための組織にしたいと切望している。Googleは世界中の人々と情報を無料でつないでおり、Gmailなどの無料サービスも投入していく。

われわれはGoogle基金(Google Foundation)を設立し、従業員の時間や Googleの純資産と利益の約1%など多くの資源を基金に寄付したいと考えている。

われわれはGoogle基金が世界中で起こっている問題に革新的なアプローチと多くの資源を大胆に投入することで、いつの日かGoogle自体をも凌ぐ存在になることを願っている。

[1] CNET Japan「グーグル、ついに株式公開決定 - 資金...
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000050156...
[2] WIRED NEWS「グーグルのユニークな社風、IPO後も生...
http://www.hotwired.co.jp/news/news/business/stor...
[3] CNET Japan「わが道を行くグーグルの『オーナーズマ...
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,200005015...
[4] SEC, Form S-1: Google Inc.
http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1288776/0...

追記 (2004-05-08)

その後の GoogleのIPOに関する記事のフォロー。

CNET Japan「グーグルで会長ポストが空席に」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,200005015...
CNET Japan「IT技術の進歩がグーグルのネットIPOを後押し」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,200005015...
CNET Japan「グーグルを値踏みする--競合他社との比較に...
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,200005015...
CNET Japan Blog「梅田望夫: GoogleのIPO申請、そのやり...
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001187.html
CNET Japan Blog「梅田望夫: GoogleのIPOに対する直観に...
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001198.html

Posted on 2004-05-03T10:37+09:00 | Category: Webトレンド

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Tracked on 2004-12-17T19:05+09:00

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